*重要教育資料入門*『学校・教育委員会等向け 虐待の手引き』 文部科学省(令和元年5月9日)
-2019.8.19-
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▼児童相談所における虐待対応件数は、過去最多の総
数13万件で、そのうち約1万件は学校等から相談によ
るもので、関係者が虐待発見・対応にあたり、重要な
役割を果たしています。しかし、まだ課題は残ってお
り、学校や教育委員会等の関係者が虐待と疑われる事
案について、迷いなく対応に臨めるよう具体的な対応
方法についてまとめられた手引きです。
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【基礎編】
1.虐待とは
虐待は、子供の心身の成長及び人格の形成に重大
な影響を与えるとともに、次の世代に引き継がれる
おそれもあり、子供に対する最も重大な権利侵害で
す。最悪の場合、子供を死に至らしめる事例も少な
くありません。保護者による虐待は、家庭内におけ
るしつけとは明確に異なり、懲戒権などの親権によ
って正当化されるものではありません。
このように、虐待は深刻な問題であり、学校・教
育委員会等の関係者は、幼児児童生徒の安全を守る
立場から虐待の態様や影響について理解しておくこ
とが必要です。虐待の種類は概ね次の4タイプに分
類されますが、多くの事例においては、いくつかの
タイプの虐待が複合していることに注意しなければ
なりません。
【虐待の種類】
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ー身体的虐待ー
幼児児童生徒の身体に外傷(打撲傷、あざ(内出血)
骨折、刺傷、やけどなど様々)が生じ、又は生じる
おそれのある暴行を加えること。外側からは簡単に
見えないような場所に外傷があることも多くありま
す。
ー性的虐待ー
直接的な性行為だけでなく、性的な満足を得るため
にしたりさせたりする行為などより広い行為が含ま
れます。子供をポルノグラフィーの被写体にするこ
となども含まれます。
ーネグレクトー
心身の正常な発達を妨げるような著しい減食または
長時間の放置、保護者以外の同居人による身体的虐
待や性的虐待の放置、その他保護者としての監護を
著しく怠ること。例えば、重大な病気になっても病
院に連れて行かない、下着など長期間ひどく不潔な
ままにする、子供を遺棄したり、置き去りにすると
いった行為を指します。
ー心理的虐待ー
子供の心に長く傷として残るような経験や傷を負わ
せる言動を行うこと。子供の存在を否定するような
言動が代表的ですが、兄弟姉妹との間に不当なまで
の差別的な待遇をする場合もあります。また、配偶
者に対する暴力や暴言、いわゆるドメスティックバ
イオレンス(DV)や、その他の家族に対する暴力や
暴言を子供が目撃することは、当該子供への心理的
虐待に当たります。
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ネグレクトの一種として子供を学校に通学(園)
させない、いわゆる教育ネグレクトという形態もあ
り、そのような場合は子供の教育を受ける権利を侵
害するだけでなく教育上の著しい悪影響を及ぼすも
のと考えられます。
いずれにせよ、虐待は家族の構造的な問題を背景
として起きており、児童相談所などでは家族の歴史
や家族間の関係、経済的背景などを含めて総合的な
見立てを行っています。学校・教職員においても、
保護者の成育歴、就労や家計の状態、居住状況、ス
トレスの状態、心身の問題、子供の障害や疾病等の
育児負担の問題、望んだ妊娠であったのかどうかと
いう問題など、多様な要因によって虐待が起きると
いうことを理解しておくことが大事です。
2.虐待が及ぼす子供への影響
虐待は1.のとおり、いくつかのタイプに分けら
れ、それぞれのタイプによって心身への影響には異
なる面がありますが、いずれにおいても子供の心身
に深刻な影響をもたらすものです。虐待の影響は、
虐待を受けていた期間、その態様、子供の年齢や性
格等により様々ですが、身体的影響、知的発達面へ
の影響、心理的影響について、いくつかの共通した
特徴が見られます。
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①身体的影響
外傷のほか、栄養障害や体重増加不良、低身長など
がみられます。愛情不足により成長ホルモンが抑え
られた結果、成長不全を呈することもあります。
②知的発達面への影響
安心できない環境で生活することや、学校への登校
もままならない場合があり、そのために、もともと
の能力に比しても知的な発達が十分得られないこと
があります。
③心理的影響
他人を信頼し愛着関係を形成することが困難となる
など対人関係における問題が生じたり、自己肯定感
が持てない状態となったり、攻撃的・衝動的な行動
をとったり、多動などの症状が表れたりすることが
あります。
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3.学校、教職員等の役割
(1)学校・教職員の役割、責務
学校、教職員においては、虐待の早期発見・早期
対応に努めるとともに、市町村(虐待対応担当課)
や児童相談所等への通告や情報提供を速やかに行う
ことが求められます。
児童虐待法によって学校や教職員に求められる主
な役割は、以下の①~④の4点ですが、虐待の有無
を調査・確認したりその解決に向けた対応方針の検
討を行ったり、保護者に指導・相談・支援したりす
るのは権限と専門性を有する児童相談所や市町村(
虐待対応担当課)です。このことから、学校・教職
員としては、(2)に挙げた関係機関の役割や専門
性を念頭に置きつつ、学校としての役割を果たすよ
うにしてください。個別の事案にどのように対応す
べきかについては、対応編2~3で確認してくださ
い。
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①虐待の早期発見に努めること
(努力義務)【第5条第1項】
②虐待を受けたと思われる子供について、市町村(
虐待対応担当課)や児童相談所等へ通告すること
(義務)【第6条】
③虐待の予防・防止や虐待を受けた子供の保護・自
立支援に関し、関係機関への協力を行うこと
(努力義務)【第5条第2項】
④虐待防止のための子供等への教育に努めること
(努力義務)【第5条第3項】
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このほか、児童虐待防止法第13条の4により、児
童相談所や市町村(虐待対応担当課)から虐待に係
る子供又は保護者その他の関係者に関する資料又は
情報の提供を求められた場合、必要な範囲で提供す
ることができるとされています。
さらに、学校等及びその設置者においては、「児
童虐待防止対策に係る学校等及びその設置者と市町
村・児童相談所との連携の強化について」(平成31
年2月28日初等中等教育局長等通知)にあるように
保護者から情報元(虐待を認知するに至った端緒や
経緯)に関する開示の求めがあった場合は、情報元
を保護者に伝えないこととするとともに、児童相談
所と連携しながら対応する必要があります。また、
学校が保護者から威圧的な要求や暴力の行使等を受
ける可能性がある場合は、即座に設置者に連絡する
と同時に、設置者と連携して速やかに児童相談所、
警察等の関係機関、弁護士等の専門家と情報共有し
対応を検討すること等が重要です。
(2)関係機関の役割
学校においては、関係機関と次のような役割分担
のもとで、それぞれの責務を最大限果たしながら、
有機的に対応することを念頭に自分の役割を果たし
ていくことが重要です。
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≪児童相談所≫
児童虐待の通告や学校などの関係機関からの情報
提供を受け、子供と家族の状況の把握、対応方針の
検討を行った上で、一時保護の実施や保護者への指
導、来所によるカウンセリング、家庭訪問による相
談助言、里親委託、児童福祉施設への入所措置など
必要な支援・援助を行う。主に都道府県が運営・管
理。
≪市町村(虐待対応担当課)≫
児童虐待通告や学校等の関係機関から情報提供、
また、育児不安に対する相談に応じるとともに、市
町村に設置する要保護児童対策地域協議会の調整機
関として、支援を行っている子供の状況把握や支援
課題の確認、並びに支援の経過などの進行管理を行
うことはもとより関係機関がその役割に基づき対応
に当たれるよう必要な調整を行う。
≪警察≫
110番通報や児童相談所等の関係機関からの情
報提供を受け、関係機関と連携しながら子供の安全
確保、保護を行うとともに、事案の危険性・緊急性
を踏まえ、事件化すべき事案について厳正な捜査を
行う。
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(参考:NSK教採通信)