*重要教育資料入門*『遠隔教育の推進に向けた施策方針』
-2019.5.14-
『遠隔教育の推進に向けた施策方針』
文科省 遠隔教育の推進に向けたタスクフォース
(平成30年9月14日)
▼教育の質の向上を図る観点から、教育現場の実情
を踏まえ、遠隔教育が効果的な学習場面や、遠隔シ
ステムを活用する際の課題・留意点等について検討
を行い、施策方針を示したもの。
1.遠隔教育の推進に当たっての基本的な考え方
(1)遠隔システムの積極的な活用が有効な教育活動
*遠隔システムを活用することにより、距離に関わり
なく相互に情報の発信・受信のやりとりを行うこどが
できる。このため、小規模校等における教育活動を充
実させたり、外部人材の活用や幅広い科目の解説など
により学習活動の幅を広げたりすることなどにおいて
遠隔システムの活用は重要な意義を持つ。
*また、不登校児童生徒や病気療養児など、様々な事
情により通学して教育を受けることが困難な児童生徒
にとにとって、自宅や病院等において行う遠隔教育は、
学習機会の確保を図る観点から、重要な役割を果たす。
(2)遠隔教育が効果を発揮する基本の整備
*学校教育は、教育基本法や学校教育法等で明らかに
されているように、教師と児童生徒、児童生徒同士の
日常的な直接の触れ合いを通して、児童生徒を全人的
に育成していくものであり、縁覚教育が効果を発揮す
るためには、必要となる数の教職員の配置を含め適切
な教育環境が成り立っていることが不可欠である。
特に、学校教育の中心である授業は、単に知識を伝授
するのではなく、児童生徒と教師、児童生徒同士の触
れ合い、関わり合いの中で学習する場であり、教師は、
児童生徒一人一人の特性や状況等を的確に把握しつつ、
教科指導と生徒指導とを密接に関連付けながら指導す
べきものである。
*また、人工知能(AI)等の先端技術が飛躍的に進化
し、次の大きな変革として訪れようとしているSociety
5.0といった社会の構造的変化を踏まえると、学校にお
いてこそ、子供たちは対話や協働、学び合いや教え合
いなどを通じて人間としての強みを更に伸ばし、発揮
することが求められており、教師には、高い専門性を
磨くとともに、集団としての学びの質を高める力量が
必要となる。
*このため、これからの学校教育では、教師一人一人
が、子供たちの発達の段階や発達の特性、子供の学習
スタイルの多様性や教育的ニーズ、学習の場面等に応
じた方法について研究を重ね、指導にああたることが
重要であり、こうした教師の専門性を発揮できる教育
環境を整備する必要がある。
*このことは、学校や学級の規模を問うものではない。
小規模校の場合、社会性やコミュニケーション能力を
身に付ける機会を得にくいなどの課題が生じる可能性
はあるが、児童生徒の多様な特性や状況等を把握しな
がら、教師と児童生徒がともに学校生活を行っていく
ことが、より質の高い教育活動を行っていくためには
不可欠である。このために必要な教育環境を整えるこ
とは、国や地方公共団体などの責務である。
*すなわち、教師が児童生徒一人一人の個性を理解し、
特性や状況等を把握するなどの日常的な児童生徒理解
を通して、教師と児童生徒との信頼関係及び児童生徒
相互のよりよい人間関係が形成されていることが、学
習や生活の基盤であり、かつ遠隔教育が効果を発揮す
る基盤でもある。また、遠隔教育においても、一人一
人の児童生徒に対する教育を向上していく観点から、
その手法や活用の場面等が検討されるべきであり、
この点では通常の授業と変わるものではない。
*これらのことは、遠隔教育を推進していく上で重要
な視点である。
2.遠隔教育の現状と課題
*遠隔教育の効果や実践について教育関係者の理解が
必ずしも十分ではなく、一人一人の児童生徒の状況等
に応じた学習機会を提供する観点から、より一層遠隔
教育を効果的に活用する余地がある。
*また、これまでの実証研究等を通じて、遠隔教育の
実践に当たり、教師と児童生徒、児童生徒同士が同じ
教室内に必ずしもいないことや、ICT環境を整備する
必要が生じることなどを背景として、次のような課題
があることも明らかになってきている。
*このため、遠隔教育がその強みを発揮し、全国にお
いて効果的に広く普及していくためには、これらの課
題を踏まえた推進方策を明らかにすることが必要となる。
(1)学校における指導上の課題
*一般に、教師は教科等の授業時間だけでなく、休み
時間や昼食、掃除の時間、部活動など様々な面を通じ
て、児童生徒一人一人の特性や状況等をきめ細やかに
理解するよう努めており、それを前提として指導を行
っている。遠隔教育の場合には、配信側の者が学習上
や生活指導上の困難を有する児童生徒への対応を含め、
日常的な児童生徒理解に基づいた指導を十分に行うこ
とができない可能性がある。
・教室の中での位置取りを変えて、ノートやワークシ
ートに書いている内容や「なるほど」「そうかなあ」
といった小さなつぶやきから児童生徒の理解の状況や
疑問点を把握し、指名の順番を工夫するなどして、次
の授業展開につなげる。
・集中できていない児童生徒の近くに寄って緊張感を
与えたり、学力に自信のない児童生徒の近くに寄って
個別に励ましたり肯定したりする。
・挙手もしていない児童生徒に対しても、ノートやワ
ークシートに書いている内容や発言をしようか迷って
いる表情を読み取り、発言するように促す。
・授業全体の流れに遅れてしまっている児童生徒がい
る場合、その周りの児童生徒に手助けをしてあげるよ
う伝えるなど、教え合い、学び合う流れをつくる。
*このため。配信側の教師と受信側の児童生徒が同じ
教室内にいない遠隔教育の場合、配信側の教師には、
適時・適切な指導や声かけをし、的確な学習評価を行
うことに限界があるのが現状である。
*さらに、学校においては、理科の実験や家庭科の調
理実習、図画工作科で用具を使う際などはもとより、
児童生徒のケガや急病など様々な不測のリスクが存在
している。遠隔教育においても、こうしたリスクを未
然に防ぎ、リスクが顕在化した場合に迅速に対処する
ことが求められることから、受信側の教師において、
安全に授業を行う上での十分な配慮と対応が求められ
る。
*このような中、遠隔教育を実施した経験のある教育
委員会や学校、教職員等が現時点では多くなく、教育
現場における実践の蓄積も少ないと言わざるを得ない。
このため、遠隔教育の実施に当たっては、実施日や学
校時程の調整、指導計画等の作成、教材の準備等につ
いて、通常の授業と比べて時間や手間がかかる現状に
あることに加え、教師の負担を軽減しながら効果的か
つ安全に指導を行う方法や留意点等もいまだ明確とな
っているとは言えない状況である。
(2)ICT環境整備上の課題
*遠隔教育を行うためには、学校に遠隔システム等の
ICT機器を設置し設定や調整を行うことが必要となる。
このため、適切な体制が整備されていないと、事前準備
や機器のメンテナンス等を行うことが必要となるととも
に、これらの機器等のトラブルが生じた場合、授業が適
切に進行できない事態が生じる恐れがある。
*また、遠隔教育を行うためのICT環境の整備や維持に
費用が必要となることから、財政的な負担が生じる。そ
の際、実施する遠隔教育の内容と、それに基づきどの程
度の品質や機能などが必須であるかなどを、各学校は的
確に見極めることが大切となる。
(参考:NSK教採通信)