*重要教育資料入門*『不登校重大事態に係る調査の指針』(平成28年3月文科省初等中等教育局)
-2017.8.10-
『不登校重大事態に係る調査の指針』
(平成28年3月文科省初等中等教育局)
▼第1調査の目的
本指針は「いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認める」(いじめ防止対策推進法(以下「法」)28条1項2号)事態(以下「不登校重大事態」)に係る調査(具体的には、当該重大事態に係る事実関係を明確にするための調査)の指針である。
法28条1項の規定による調査は、条文上「重大事態に対処し、及び当該重大事態と同種の事態の発生の防止に資するため」に実施するものとされているが、不登校重大事態に係る同項規定による調査(以下単に「調査」)の目的は、具体的には、不登校に至った事実関係を整理することで、いじめにより不登校に至った疑いがある児童生徒(以下「対象児童生徒」)が欠席を余儀なくされている状況を解消し、対象児童生徒の学校復帰の支援につなげることと、今後の再発防止に活かすことです。
そのため、具体的には「重大事態に至る要因となったいじめ行為が、いつ(いつ頃から)、誰から行われ、どのような態様であったか、いじめを生んだ背景事情や児童生徒の人間関係にどのような問題があったか、学校・教職員がどのように対応したかなどの事実関係を、可能な限り網羅的に明確にする」ための調査を行うこととなるが、「因果関係の特定を急ぐべきではなく、客観的な事実関係を速やかに調査すべき」(基本方針)である。そして、調査は民事・刑事上の責任追及やその他の争訟等への対応を直接の目的とするものでないことは言うまでもなく、学校及び設置者は、たとえ自らに不都合なことがあったとしても、事実にしっかりと向き合おうとする姿勢が何よりも重要である。
なお、学校において、いじめの事実の有無の確認のための措置を講じた結果、重大事態であると判断した場合も想定されるが、それのみでは重大事態の全貌の事実関係が明確にされたとは限らず、未だその一部が解明されたにすぎない場合もあり得ることから、調査資料の細分析や、必要に応じて新たな調査を行う必要がある。ただし、23条2項による措置にて事実関係の全貌が十分に明確にされたと判断できる場合は、この限りではない(基本方針)。
▼第2不登校重大事態に該当するか否かの判断
1:判断主体
調査は、「学校の設置者又はその設置する学校」が、重大事態に該当すると「認める」ときに行うものとされている(法28条1項)。
したがって、重大事態に該当するか否かを判断するのは、学校の設置者(以下「設置者」)又は学校である。
不登校重大事態に該当するか否かの判断に当たっては、不登校重大事態とされるべき事案が確実に不登校重大事態として取り扱われるよう、学校は、欠席期間が30日(目安)に到達する前から設置者に報告・相談し、情報共有を図るとともに、重大事態に該当するか否かの判断を学校が行う場合は、よく設置者と協議したりするなど、丁寧に対応することが必要である。
2:基準時
不登校重大事態に該当するか否かの判断は、法的には「児童等が相当の期間学校を欠席」した時点で行うものとされている。しかし、不登校重大事態の場合は、欠席の継続により重大事態に至ることを早期の段階でで予測できる場合も多いと思われることから、重大事態に至るよりも相当前の段階から設置者に報告・相談するとともに、踏み込んだ準備作業(既に実施した定期的なアンケート調査の確認、いじめの事実確認のための関係児童生徒からの聴取の確認、指導記録の記載内容の確認など)を行う必要がある。
また、調査を通じて、事後的に、いじめがあったとの事実が確認されなかった場合や、いじめはあったものの相当の期間の欠席(30日(目安))との関係は認められないとの判断に至った場合も、そのことにより遡及的に不登校重大事態に該当しないこととなるわけではない。
3:「認める」
ここにいう「認める」とは「考える」ないし「判断する」の意であり、「確認する」「肯認する」といった意味ではない。よって、学校又は設置者が、いじめがあったと確認したりいじめと重大被害の間の因果関係を肯定したりしていなくとも、学校又は設置者が重大事態として捉える場合があり、調査した結果いじめが確認されなかったり、いじめにより重大被害が発生した訳ではないという結論に至ることもあり得る。
▼第3不登校重大事態発生時の設置
1:発生の報告
(1)報告先
学校は、不登校重大事態に該当すると判断したときは、その旨を
○国立大学法人の附属学校は当該国立大学法人の学長を経由して文部科学大臣へ
○公立学校は当該学校を設置する地方公共団体の教育委員会を経由した当該地方公共団体の長へ
○私立学校は当該学校の設置者を経由して当該学校を所轄する都道府県知事へ
○学校設置会社が設置する学校は当該学校設置会社の代表取締役又は代表執行役を経由して認定地方公共団体の長へそれぞれ報告する。
(2)報告内容(例)
①学校名
②対象児童生徒の氏名、学年、性別等
③欠席期間
④報告の時点における対象児童生徒の状況
⑤重大事態に該当すると判断した根拠
(3)報告時期等
報告は、重大事態が発生したと判断した後「直ちに」(基本方針)行うものとされている。不登校重大事態の場合は7日以内に行うことが望ましい。
(4)教育委員への迅速な報告等
公立学校において発生した不登校重大事態については、各地方公共団体における教育行政の責に任ずる教育委員会として把握しておくべき事柄であることから、各教育委員に説明すべきである。そのため、公立学校から不登校重大事態の発生報告を受けた教育委員会は、教育委員への報告を迅速に行うとともに、対処方針を決定する際は教育委員会会議を招集する。
また、首長の判断により総合教育会議が招集された場合は、当該不登校重大事態への対処につき首長部局との間で協議し、調整を図る。
なお、不登校重大事態に係る事実関係には、児童生徒の個人情報が多く含まれることから、教育委員会会議や総合教育会議において不登校重大事態を取り扱う場合には、会議を一部非公開としたり、会議資料から個人情報を除いたりするなどの配慮が必要である。
2:調査の実施
(1)調査主体の決定
設置者と学校のいずれが調査を行うかは、個別の不登校重大事態ごとに、設置者が決定する。不登校重大事態に係る調査は、主としていじめの解消と対象児童生徒の学校復帰の支援につなげることを目的とするものであり、校内の日常の様子や教職員・児童生徒の状況は学校において把握していることを踏まえると、調査に際して学校の果たす役割は大きい。そこで、学校が調査に当たることを原則とする。
ただし、従前の経緯や事実の特性、児童生徒又は保護者の訴えなどを踏まえ、学校主体の調査では、重大事態への対処及び同種の事態の発生の防止に必ずしも十分な結果を得られないと設置者が判断する場合や、学校の教育活動に支障が生じるおそれがあると設置者が判断する場合5には、設置者において調査を実施する(その場合も、学校は主体的に調査に関わることが重要である。)。
また、学校が調査主体となると決定した場合でも、調査を進める中で、必要に応じ調査主体を設置者に変更し、引き続き設置者で調査を実施することも考えられる。
なお、学校が調査主体となる場合、設置者は学校に対して必要な指導や(人的措置も含めた)適切な支援を行わなければならない(法28条3項)。
(2)調査組織
調査は、設置者又は学校の下に「組織を設け」て行うものとされている(法28条1項)。設置者又は学校は、調査組織を設けたときは、直ちに調査に着手するものとする。
(留意事項)
○設置者が調査組織を設ける場合
設置者が内部に調査組織を設ける場合と、いわゆる第三者委員会を設ける場合とが想定されるが、教育委員会に第三者委員会を設ける場合、その役割が教育委員会事務局の内部に設けられた調査組織による調査の補助にとどますのであれば、その設置に際して条例の制定を要しない一方、第三者委員会に調査権限を付与するなど、教育委員会事務局からの独立性が高い組織とする場合は、教育委員会の附属機関となる以上、その設置に際して条例を制定する必要があ
る。
なお、設置者が内部に設けた調査組織が調査をする場合であっても、対象児童生徒が今後教育を受けるためにはいじめの存否に係る事実関係について詳細な事実認定が必要と判断されるときは、弁護士や警察OB等、事実認定に長けた外部の専門家に依頼し、学校が収集した情報の分析を依頼することも検討する。
○学校が調査組織を設ける場合
法22条に規定するいじめの防止等の対策のための組織を母体とする調査組織を校内に設けて調査する場合と、いわゆる第三者委員会を設ける場合とが想定される。
なお、いじめ対策組織を母体とする調査組織が調査をする場合であっても、対象児童生徒が今後教育を受けるためにはいじめの存否に係る事実関係について詳細な事実認定が必要と判断されるときは、弁護士や警察OB等、事実認定に長けた外部の専門家に依頼し、学校が収集した情報の分析を依頼することも検討する。
(参考:NSK教採通信)