*重要教育資料入門* 『性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細やかな対応の実施等について』
-2017.2.15-
『性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細やかな対応の実施等について』
(H27.4月30日、文部科学省初等中等教育局)
▼性同一性障害に関しては、社会生活上様々な問題を抱えている状況にあり、その治療の効果を高め、社会的な不利益を解消するため、平成15年、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下「法」という。)が議員立法により制定されました。また、学校における性同一性障害に係る児童生徒への支援についての社会の関心も高まり、その対応が求められるようになってきました。
こうした中、文部科学省では、平成22年、「児童生徒が抱える問題に対しての教育相談の徹底について」を発出し、性同一性障害に係る児童生徒については、その心情等に十分配慮した対応を要請してきました。また、平成26年にはその後の全国の学校における対応の状況を調査し、様々な配慮の実例を確認してきました。
このような経緯の下、性同一性障害に係る児童生徒についてのきめ細やかな対応の実施に当たっての具体的な配慮事項等を書きのとおりとりまとめました。また、この中では、悩みや不安を受け止める必要性は、性同一性障害に係る児童生徒だけでなく、いわゆる「性的マイノリティ」とされる児童生徒全般に共通するものであることを明らかにしたところです。これらについては「自殺総合対策大綱(平成24年8月28日閣議決定)を踏まえ、教職員の適切な理解を促進することが必要です。ついては都道府県・指定都市教育委員会にあたっては所管の学校及び域内の市区町村教育委員会等に対して、都道府県にあたっては所轄の私立学校に対して、国立大学法人にあたっては付属学校に対して、周知を図るとともに、学校において適切に対応できるよう、必要な情報提供を行うことを含め指導・助言をお願いいたします。
■性同一性障害に係る児童聖地についての特有の支援
a:性同一性障害とは、法においては、「生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下、「他の性別」という。)であると持続的な確信をもち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているもの」と定義されており、このような性同一性障害に係る児童生徒については、学校生活を送る上で特有の支援が必要な場合があることから、個別の事案に応じ、児童生徒の心情等に配慮した対応を行うこと。
▼学校における支援体制について
a:性同一性障害に係る児童生徒の支援は、最初に相談(入学等に当たって児童生徒の保護者からなされた相談を含む。)を受けた者だけで抱え込むことなく、組織的に取り組むことが重要であり、学校内外に「サポートチーム」を作り、「支援委員会」(校内)や「ケース会議」(校外)等を適時開催しながら対応を進めること。
b:教職員等の間における情報共有に当たっては、児童生徒が自身の性同一性を可能な限り秘匿しておきたい場合があること等に留意しつつ、一方で、学校として効果的な対抗を進めるためには、教職員などの間で情報共有しチームで対応することは欠かせないことから、当事者である児童生徒やその保護者に対し、情報を共有する意図を十分に説明・相談し理解を得つつ、対応を進めること。
▼医療機関との連携について
a:医療機関による診断や助言は学校が専門的知見を得る重要な機会となるとともに、教職員や他の児童生徒・保護者等に対する説明材料ともなり得るものであり、また、児童生徒が性に違和感をもつことを打ち明けた場合であっても、当該児童生徒が適切な知識をもっているとは限らず、そもそも性同一性障害なのかその他の傾向があるのかも判然としていない場合もあること等を踏まえ、学校が支援を行うに当たっては、医療機関と連携しつつ進めることが重要であること。
b:我が国においては、性同一性障害に対応できる専門的な医療機関が多くないところであり、専門医や専門的な医療機関については関連学会等の提供する情報を参考とすることも考えられること。
c:医療機関との連携に当たっては、当事者である児童生徒や保護者の意向を踏まえることが原則であるが、当事者である児童生徒や保護者の同意が得られない場合、具体的な個人情報に関連しない範囲で一般的な助言を受けることは考えられること。
▼学校生活の各場面での支援について
a:全国の学校では学校生活での各場面における支援として別紙に示すような取組が行われてきたところであり、学校における性同一性障害に係る児童生徒への対応を行うに当たって参考とされたいこと。
b:学校においては、性同一性障害に係る児童生徒への配慮と、他の児童生徒への配慮との均衡を取りながら支援を進めることが重要であること。
c:性同一性障害に係る児童生徒が求める支援は、当該児童生徒が有する違和感の強弱等に応じ様々であり、また、当該違和感は成長に従い減ずることも含め変動があり得るものとされていることから、学校として先入観をもたず、その時々の児童生徒の状況等に応じた支援を行うことが必要である。
d:他の児童生徒や保護者との情報の共有は、当事者である児童生徒や保護者の意向を踏まえ、個別の事情に応じて進める必要があること。
e:医療機関を受診して性同一性障害の診断がなされない場合であっても、児童生徒の悩みや不安に寄り添い支援していく観点から、医療機関との相談の状況、児童生徒や保護者の意向等を踏まえつつ、支援を行うことは可能である。
▼卒業証明書等について
a:指導要録の記載については学齢簿の記載に基づき行いつつ、卒業後の法に基づく戸籍上の性別の変更等を行った者から卒業証明書等の発行を求められた場合は、戸籍を確認した上で、当該者が不利益を被らないよう適切に対応すること。
▼当事者である児童生徒の保護者との関係について
a:保護者が、その子供の性同一性に関する悩みや不安等を受容している場合は、学校と保護者とが緊密に連携しながら支援を進めることが必要であること。保護者が受容していない場合にあたっては、学校における児童生徒の悩みや不安を軽減し問題行動の未然防止等を進めることを目的として、保護者と十分話し合い可能な支援を行っていくことが考えられること。
▼教育委員会等による支援について
a:教職員の資質向上の取組としては、人権教育担当者や生徒指導担当者、養護教諭を対象とした研修などの活用が考えられること。また、学校の管理職についても研修等を通じ適切な理解を進めるとともに、学校医やスクールカウンセラーの研修等で性同一性障害等を取り上げることも重要であること。
b:性同一性障害に係る児童生徒やその保護者から学校に対して相談が寄せられた際は、教育員会として、例えば、学校における体制整備や支援の状況を聞き取り、必要に応じ医療機関等とも相談しつつ、「サポートチーム」の設置等の適切な助言等を行っていくこと。
▼その他留意点について
a:以上の内容が画一的な対応を求める趣旨ではなく、個別の事例における学校や家庭の状況等に応じた取組を進める必要があること。
(参考:NSK教採通信)