重要教育資料問題対策 不登校児童生徒への支援に関する中間報告
-2016.3.17-
重要教育資料問題対策 重要教育資料入門
不登校児童生徒への支援に関する中間報告
~一人一人の多様な課題に対応した切れ目のない組織的な支援の推進~
平成27年8月 不登校に関する調査研究協力者会議
最近の教育教養では、資料問題の比重が大変高くなっています。特に教育時事の問題では、新しい資料による出題が大変多いです。しかし、資料問題の傾向は変わりつつあります。このコーナーでは、今後出題が予想される重要な資料について紹介・解説していきます。
今回は、「不登校児童生徒への支援に関する中間報告」を紹介します。
不登校の子どもたちに対して、どのように捉え、どのような支援をしたらよいのか、きちんと把握しておきましょう。
不登校児童生徒への支援に関する中間報告
~一人一人の多様な課題に対応した切れ目のない組織的な支援の推進~
平成27年8月 不登校に関する調査研究協力者会議
(不登校児童生徒が依然として高水準で推移していることから、学校や教育関係者等における不登校に関する取組の更なる充実を図るため、取組の充実に資するための指針となる提言をおこなったもの。)
第1章 はじめに
~本協力者会議の基本姿勢~
3.不登校の定義及び認識
文部科学省の「学校基本調査」及び「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」(以下「問題行動等調査」という。)においては、「不登校児童生徒」を何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるため年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたものとして調査しており、本協力者会議においても同様に不登校を定義して検討を行った。
不登校については、特定の児童生徒に特有の問題があることによって起こるものではなく、どの児童生徒にも起こり得ることとして捉え、教育関係者は当事者への理解を深める必要がある。また一方で、不登校という状況が継続し、結果として十分な支援が受けられない状態が続くことは、自己肯定感の低下を招くなど、本人の進路や社会的自立のために望ましいことではなく、その対策を検討する重要性についても十分に認識する必要がある。豊かな人間性や社会性、生涯を通じた学びの基礎となる学力を身に付けるなど、全ての児童生徒がそれぞれの自己実現を図り、社会の構成員として必要な変質・能力の育成を図ることは緊急の課題であって、早急に不登校に関する具体的な対応策を講じる必要がある。
不登校の要因や背景としては、本人・家庭・学校に関わる様々な原因が複雑に絡み合っている場合が多く、更にその背後には、社会における「学びの場」としての学校の相対的な位置付けの変化、学校に対する保護者・児童生徒自身の意識の変化等、社会全体の変化の影響力が少なからず存在している。
そのため、この課題を教育の観点のみで捉えて対応することには限界があるが、義務教育段階の児童生徒に対して教育が果たす役割が大きいことを考えると、不登校に向き合って懸命に努力し、成果を上げてきた関係者の実践事例等を参考に、不登校に対する取組の改善を図り、学校や教育関係者が一層充実した指導や家庭への働き掛け等を行うことで、学校教育としての責務が果たされることが望まれる。
ただし、不登校は、その要因・背景が多様であり、学校のみで解決することが困難な場合が多いという課題があることから、本協力者会議においては、学校の取組の強化のみならず、学校への支援体制や関係機関との連携協力等のネットワークによる支援、家庭の協力を得るための方策についても検討を行う。
なお、不登校については、多様な要因・背景により、結果として不登校状態になっているということであり、その行為を「問題行動」と決め付けてはいけない。不登校の児童生徒は悪いという根強い偏見を払拭し、全ての児童生徒が安心して学べる環境を実現するために、学校・家庭・社会は、不登校児童生徒に対する共感的理解と受容の姿勢を持つことが大事である。
第3章 不登校に対する基本的な考え方
1.将来の社会的自立に向けた支援の視点
不登校の解決の目標は、児童生徒が将来的に精神的にも経済的にも自立し、豊かな人生を送れるよう、その社会的自立に向けて支援することである。その意味において、不登校対策は、学校に登校するという結果のみを最終目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指すことが必要である。
児童生徒によっては、不登校の時期が、いじめによるストレスから回復するための休養時間としての意味や、進路選択を考える上で自分を見つめ直す等の積極的な意味を持つこともある。しかし、同時に、現実の問題として、不登校による進路選択上の不利益や社会的自立へのリスクが存在する。
「平成18年度不登校経験者にインタビュー調査」を実施してるが、行かないことも意味があったという不登校に対する肯定的な意見が回答者の32.6%、行けば良かったと後悔しているという否定的な意見が回答者の39.4%、仕方がない又は考えないようにしている等の中立的な意見が28.1%を占めている。不登校であったことに対する肯定的な意見では、「不登校を経験したおかげで今の自分がいる」や、「不登校を経験したことで出会いや友人の大切さを知った」というものがあった。不登校であったことについて否定的な意見では、「当時は授業が嫌いで遊ぶのが好きというだけだった」、「一般知識や対人関係の経験に乏しい点が悔やまれる」や、「不登校となったことで友人関係もなくしてしまった」というものがあった。中立的な意見は、「当時は不登校するしかなかったから仕方がなかった」、「過去のことは考えても仕方がない」などであった。このようなことから、現在は行っておけば良かったと考えている割合が多いという結果となった。
このような調査結果を踏まえ、不登校児童生徒に対して、不登校の要因を解消し、学校復帰を促すとともに、場合によっては学校復帰以外の選択肢を掲示することが、児童生徒の社会的自立に向けた支援となることを改めて認識する必要がある。
2.個別の児童生徒に対する組織的・計画的支援
不登校児童生徒への支援については、個々の児童生徒ごとに不登校となったきっかけや不登校の継続理由は異なるから、それらの要因を適切に把握し、個々の児童生徒に合った支援策を策定し、その支援策を学校や家庭、必要に応じた関係機関が情報を共有して、組織的・計画的に実施していくことが必要である。
3.連携ネットワークによる支援
不登校への対応に当たっては、多様な問題を抱えた児童生徒に、傾向に応じてきめ細かく適切な支援を行うこと及び社会的自立へ向けて、進路の選択肢を広げる支援をすることが大切である。そのためには、学校、家庭、社会が連携協力し、不登校児童生徒がどのような状態にあり、どのような支援を必要としているのか正しく見極め(アセスメントを行い)、適切な機関による支援と多様な学習の機会を児童生徒に提供することが重要である。
連携ネットワークによる支援に関しては、不登校の解決を中心的は課題とする新たなネットワークを組織することも一つの手段であるが、不登校児童生徒を積極的に受け入れる学校や関係機関等からなる既存の生徒指導・健全育成等の会議等の組織を生かすなどして、効果的かつ効率的に連携が図られるよう配慮することが重要である。その際、学校や教育行政機関が、多様な学習の機会や体験の場を提供するフリースクールなどの民間施設やNPO等と積極的に連携し、例えば、学校の教員等が民間施設と連絡を取り合い、互いに訪問する等の具体的行動をとるなど、相互に協力・補完し合うことの意義は大きい。
また、連携ネットワークにおいては、不登校児童生徒への事後的な対応のみならず、幼稚園・保育所・小学校・中学校・高等学校等のそれぞれの間の連携を重視して、個々の児童生徒が抱える課題に関して、情報交換し、必要に応じて対策を協議するなどして、一人一人の児童生徒が自己の存在感や自己実現の喜びを実感できる学校教育の実現に向けて、日頃から連携を図ることが望まれる。
4.将来の社会的自立のための学校教育の意義・役割
不登校対応の最終的な目標である児童生徒の将来の社会的自立を目指す上で、対人関係に係る能力や集団における社会性の育成などの「社会への橋渡し」とともに、学びへの意欲や学ぶ習慣を含む生涯を通じた学びの基礎となる学力を育てることを意図する「学習支援」の視点から、特に義務教育段階の学校は、基礎学力や基本的な生活習慣、規範意識、集団における社会性等、社会の構成員として必要な資質や能力等をそれぞれの発達段階に応じて育成する機能と責務を有しており、その役割は大きい。
したがって、学校・教育関係者は、全ての児童生徒が学校に自己を発揮できる場があると感じ、自分と異なる多様な特性を受容し合えるような集団づくりを通して、楽しく、安心して通うことができるよう、一層の学校教育の充実のための取組を展開していくことが重要である。同時に、児童生徒の不登校のきっかけとなった問題には学校に起因するものも多くあることを深刻に受け止め、その解消に向けて最大限の努力をすることが必要である。