教育資料問題対策 重要教育資料入門 「これからの学校教育を担う教員の在り方について」(報告)
-2015.6.19更新-
最近の教職教養では、資料問題の比重が大変高くなっています。特に教育時事の問題では、新しい資料による出題が大変多いです。しかし、資料問題の傾向は変わりつつあります。このコーナーでは、今後出題が予想される重要な資料について紹介・解説していきます。
今回は文科省が昨年秋に報告した「これからの学校教育を担う教員の在り方について」です。報告の主旨について理解するというよりは、教師の在り方についての背景の部分などが、問題文として抜粋される可能性が高いです。
これからの学校教育を担う教員の在り方について(報告)
~ 小中一貫教育制度に対応した教員免許制度改革 ~
平成26年11月6日 中央教育審議会初等中等教育分科会
1.背景 ~教員の役割の重要性~
社会が急激に変化する中、我が国の教育にも、以下のような時代の変化に即した対応が求められており、教育を支える教員についても同様に、時代の変化に対応し、あるいは時代 の変化を先取りし、教員にふさわしい資質能力を備える必要がある。
○知識基盤社会への対応
我が国においても知識基盤社会の到来とともに、知の創造の価値がこれまで以上に高まっている。そのような中、自ら課題を発見し、他者と協働してその解決に取り組み、新たな価値を創造できるような力を身に付けることが必要となっている。
○国際化への対応
世界全体の国際化が加速する中、多様な価値観と共存し、新しい価値を創造していくことが、これからの日本人に求められている。すなわち、イノベーションを創出し、多様な文化や価値観を受容し共生していくことができる人材や、国際的に活躍できる人材の育成が必要となっている。
○人口減少社会への対応
我が国を見ると、少子化と高齢化が同時に進行し、年齢構成バランスが著しく変化することが予想されている。5 0年後には、生産年齢人口が半分にまで減少し、社会保障においては、三人で一人を支えるという構図から一人で一人を支える構図へと変化することとなる。このような中、現在の豊かさを維持しつつ社会を安定させるためには、日本人の労働生産性を今より更に高めることが必要となっている。また、高齢化の進行により地域社会の維持が難しくなっていることが指摘されており、 国民一人一人が社会に積極的に参画する意識を高め、社会を支えていくことが必要となっている。
これらの変化への対応方策の一つが、教育の質の向上であり、中でも学校教育をどこまで充実させられるかが、今後の我が国の未来を左右すると言っても過言ではない。
学校教育の質保証の仕組みとして、教科書等に関する諸制度など教育内容や教育方法に係る全国的な基準が整備されるとともに、教職員定数に関する諸制度や義務教育費国庫負担制度、県費負担教職員制度を通じて適切な教員の確保が図られている。 さらに、直接児童生徒を指導する教員の役割は極めて重要であることから、教員の資質及び能力の維持向上及び開発を図るため教員免許制度や教員研修制度などが整備されている。
今後、日本や世界の未来の姿を見据えながら、我が国の学校教育について、その制度や運用をより一層現状に適合させるとともに、効果的・ 効率的なものとなるよう更なる改革を進めることが求められており、教員の養成・採用・研修についても同様に改革を進めていくことが必要である。
この報告において、以下の課題を踏まえ、教員の養成・採用・研修の各段階における取組に一貫性を持たせながら、これらの改革を方向付けることとする。
2.課題 ~社会変化に伴い生じる様々な課題~
教員の養成・採用・研修の各段階における主な課題は以下のとおりであるが、これらの課題は相互に関連し合うものであり、これらの課題を一体的に捉え、教職生活全体を通じて学び続け、キャリア形成を図るよう、教育委員会、学校、大学がそれぞれの役割を明確にした上で連携・協働し、これを推進・支援する方策を講じることが重要である。
(1)教員養成における課題
知識の伝達というこれまでの一般的 な指導方法の更なる充実のほか、児童生徒が主体的・協働的に学ぶ授業を展開できる力や、各教科横断的な視野で指導できる力、学校段階間の円滑な移行を実現する力など、従来の力に加え、新しい指導力が必要となっている。さらに、教員が社会の変化に対応できるためには、養成段 階は教員となる際に必要な基礎的・基盤的な学修を行う段階であることを踏まえると、揺るぎない教育観や児童生徒の発達に対する理解など教員としての基本的な知識や能力を備えている必要がある。また、特別支援教育、小学校英語の教科化、道徳の教科化、I C Tの活用など、近年の教育改革の方向に合わせた教員養成 課程の充実を図るとともに、生徒指導や学級経営を行う力の育成にも対応することが求められている。実践的指導力を養うため、大学においては、教育委員会や学校現場の実情、ニーズを把握し、これらの者との共通理解の下に教員養成を行う必要がある。その際、教職生活全体を俯瞰して、養成段階で身につけるべき内容を整理する必要がある。さらに、豊かな知識と識見はもとより、大きく変動する社会の中での教育の在り方に関する理解や、多様化した保護者の関心や要求に対応できる豊かな人間性とたくましさ、小・中学校をはじめとした各学校の特色や関係性に関する幅広い知見を備えた教員を養成することも必要である。
(2)教員採用における課題
学校に対するニーズが複雑化・多様化する中、豊かな知識と識見はもとより、幅広い視野を持った個性豊かでたくましい人材を教員として確保することが必要である。
また、一層多様化している児童生徒の興味・関心に対応するため、教科や指導法の一部についてより高い専門性を持った人材の確保も必要となっている。さらに、採用における当事者間のミスマッチを未然に防ぐため、採用前において学校現場を経験する機会を増やすなど、互いのニーズを符号させる工夫も必要である。
(3)教員研修における課題
O E C Dの国際教員指導環境調査(T A L I S)によると、日本の教員は研修意欲は高いものの、日常業務の多忙化などにより、必要な研修のための時間を十分に確保することが困難な状況であることが判明した。このため、学校における業務の精選や効率化を進めるとともに、教職員の役割分担の見直しや専門家の活用、組織体制の強化などチームとしての学校の力の向上を図ることによって教員研修等のための機会を確保することが必要となっている。また、国、都道府県、市町村、学校がそれぞれ主体となって研修を行っているが、 全体として体系立った研修が行われていない。このため、研修の実施主体が有機的連携を図りながら、教員のキャリアの段階に応じ、教員のニ ーズも踏まえた研修を効果的・効率的に行うことが必要である。さらに、研修成果の可視化についても工夫することが必要である。
(4)教員免許制度における課題
教育の質保証の仕組みの一つとして、我が国では教員免許制度が整備されている。
この制度は、現在、学校種ごとの免許状を基本としているが、近年、学校種を超えた連携や学制改革の検討が進められる中で、次世代の免許制度の在り方について議論し、適切な見直しを行うことが必要となっている。
3.改革の方向性
学校教育の成否は、正に教員の力量にかかっており、教員の資質能力を確実に開発・向上させることが我が国の学校教育の水準を高めることになる。その際、今後学校がチーム学校として、従来にはない組織としての機能が求められる中、教員についてもチーム学校を支える一員としての資質や能力が求められている。 このため、以下の「改革の視点」を持って、教員の養成・採用・研修の改革に取り組むことが重要である。
【改革の視点】
○ 多様性への対応
これまでの既成概念や固定観念にとらわれることなく、教育の目的の達成に向けて、多様な専門性や経験を有する人材によって多様な方法による教育を行うことができるような改革とする必要がある。
○ 体系的な取組
教員の資質能力の向上について、より効果的・効率的に取り組むためには、大学などにおける教員養成、教員採用、採用後の現職研修などの各段階を通じ、また、国、都道府県、市町村、学校などの取組主体が、一貫した理念の下、相互に関連して体系的に取り組む必要がある。この際、教職生活全体を通じた職能成長を促す観点から、教員養成、教員採用、現職研修や、その主体となる国、大学、教育委員会、学校等がそれぞれ の役割とその分担を明確にしながら相互に緊密な連携・協働体制を構築する必要がある。とりわけ、独立行政法人教員研修センターの果たす役割は小さくなく、その機能強化を図ることが望まれる。
○次世代の教育像を意識した取組
現状の課題に即した具体的方策の検討という従来型思考による改革を着実に進めていくとともに、我が国は少子化・高齢化などの社会変化の速度が世界の中でも最も早く進行していることから、更に先んじて日本社会やその中の教育の将来像を描きつつ現在行わなければならない取組を逆算的に明らかにして、改革に取り組むことが重要である。